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PAM通信モバイル版

コラム vol.79 2013.10 発行

<第79回>APOカップvol.3


APOカップ本番の数日前。
ホテルの部屋で壊れた充電器を呆然と見つめていた。
前述のように、電動車椅子サッカーは激しい動きを繰り返すため、バッテリーの消費が早い。
1日に数試合プレーするだけで、バッテリーがほぼなくなるということもよくあるので、充電器が壊れてしまうということは、試合に出場することができなくなるということになる。

ここが日本であれば、普段お世話になっている車椅子業者に借りることもできるが、ここはオーストラリアであり、そういうわけにはいかない。
事態を飲み込めない僕は、とりあえずベットで寝て一休みしようとするが、周りから「何とかしないと!」と諭され、我に返る。そりゃそうだ。
オーストラリアまで来て、試合に出られませんでした、なんてことになったらシャレにならない。
オーストラリア滞在中で、1,2を争うぐらいの電動車椅子関係のトラブルだった。
結局、日本代表スタッフやオーストラリアの大会スタッフの方に事情を説明し、現地にある充電器と日本代表スタッフの持っていた充電器を貸して頂けることになり、なんとか出場断念を回避することができたが、到着早々、自分のミスにいろんなひとを巻き込んでしまい、かなり反省した。

ある程度の予備知識は得ていたが、準備が足りなかったのは間違いない。
海外遠征の大変さをいきなり思い知らされた気分だった。
又、今回のトラブルを乗り越えられたのも多くの人達の協力があったから。
日本代表スタッフ・現地の大会スタッフの方々はもちろん、日本代表のチームメイト、自分が所属するクラブチームのみんな、会社の人達・普段の生活を支えてくださっているヘルパーさんといった、自分を支えてくださる人達がいるから、こうして日本代表に選ばれ、オーストラリアまで来られて大会に出場できるということを、あらためて感じた出来事だった。

数日後、公式練習が始まった。
オーストラリアに到着した時のような異常な暑さではないものの、現地の体育館はじっとしていても汗が噴き出るぐらいの蒸し暑さで充満していた。
こういった環境での練習や試合は、自分が感じる以上に汗が出てしまうため、脱水症状にならないよう、こまめな水分補給が不可欠。
実際、自分も日本の夏での練習で水分補給を怠り、脱水症状になりかけたことがあった。
水分補給にも気を配りながら練習に入る。
練習では久しぶりにボールを蹴るので不安があった。
電動車椅子サッカーは、見た目以上に繊細なボールタッチが必要な競技。

1回の練習に参加できないだけで、感覚が鈍り微妙にボールコントロールにズレが生じてしまうことさえある。
試合ではただ、強いボールを蹴るだけでなく、ボールを数センチ単位で動かすことが必要なシーンも多々あるので、選手は電動車椅子を動かすジョイスティックの操作感覚には神経を尖らしている。
自分自身も久しぶりの練習だったので、まずは細かい操作感覚を取り戻すことに集中しようと思っていた。
ところが、周りの選手はというと、慣れない環境による久しぶりの練習でも、なんの違和感もなく流れるようにボール回していた。
心の中では「え、うそ、やばい」と思い、慌てて一人体育館の片隅でひたすら電動車椅子を動かしたりして、自分の中にある感覚を取り戻す練習を始める。

そのせいなのか、異常に汗を掻いてしまい、練習しては水分補給を繰り返す。
傍目から見たら、絶対に日本代表選手には見えない。
現に、自分も日本代表の選手なはずが、同じ日本代表のチームメイト達を羨望のまなざしで見ていた。
「やっぱりすごいな~」「かっこいいな~」
最年長選手の風格はどこへやら。
まあ、普段通りといえば普段通り。
変な気負いもなくいい精神状態に持っていけているような気がした。
普段から、選手におけるメンタルコントロールの大切さは知っていた。
大きな大会になればなるほど、いかに試合前までにいい精神状態にしていくかというのは、試合の結果を左右するほどの重要なポイントになる。

最初の戦いはオーストラリアに着いた時から始まると思っていた。
こういった海外の試合でまず重要なのが、その土地での生活に順応していくことが挙げられる。
気候や食事だけでなく、言葉・文化などといった部分も含めて、異国での生活を送りながら順応していき、体や精神状態をなるべく普段と同じようにリラックスさせたかった。
これができないと、大事な試合などで本来の実力を発揮することが難しくなる。
又、リラックスさせるという意味では、日本の雑誌が役に立った。
海外に行くと、日本語を目にすることはほとんどなくなる。
そこで、自分の趣味である漫画の雑誌を一つ持って行った。
たまに雑誌で日本語を読むことで、気持ちをリラックスさせるのに一役買っていたように思う。

こうやって、メンタルコントロールがうまくできたことで、試合までに選手として戦う気持ちに持っていくことができた。
これができなかったら、試合では戦えなかったと思う。
それぐらいAPOカップの試合は、精神的強さを試されるタフな試合の連続だった。(TA)