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コラム vol.83 2014.2 発行

<第83回>APOカップ(vol.5)


「大丈夫か?!」
誰かの声が聞こえて目を開くと、眼前に試合コートの床が広がっていた。
「起こすぞ」
なにやら周りがざわついている。
そして、我に返った。
「転倒したんだ・・・」

大会3日目。
Australia・Greenとの対戦。
相手選手とボールを競り合った瞬間、ボールに乗り上げ電動車椅子が横倒しになった。
ほんの1~2秒の出来事だったが、倒れる瞬間はまるでスローモーションのようにゆっくりだった。
転倒した瞬間右側頭部を床に打ち付けたらしく、右のこめかみ周辺がズキズキと痛んでいた。
掛けていた眼鏡も外れ視界がぼやけていたが、いつの間にか多くの人が自分の周りを取り囲んでいることに気づいた。
「頭を打ったな。とりあえずコートから出よう」
電動車椅子を手で押せるように切り替えると、スタッフに押してもらいながらコートから出て行った。
その際に、会場から拍手が湧いたけど、すごく気恥ずかしかったのを覚えている。
そそくさとコートから出た後、チームドクターが駆けつけてくれた。
「今から聞く質問に答えて」
いきなりそう言われて戸惑う。
「ここはどこですか?」
「オーストラリア」
「なんのために、オーストラリアに来ましたか?」
「電動車椅子サッカーの大会に出るためです」
「昨晩は何を食べましたか?」
「・・・ミートローフ?!」
「よかった。意識ははっきりしているみたいだね」
僕が頭を打ったため、意識や記憶が混濁していないか確認された。
正直頭打ってなくても昨日の晩ご飯を一瞬思い出せない時はあるけど、とりあえず意識ははっきりしていた。
「痛みはない?頭や首とか」
「頭は痛いですけど、首は大丈夫です」
「時間がたつと首も痛くなってくる可能性もあるから、気をつけた方がいいよ」
氷嚢を頭に当ててもらいながら、ドクターの話を聞く。
「ピー!」
審判の笛が鳴り響く。
僕が転倒したため中断していた試合が再開されていた。
コートを背にしていたため、試合を見ることができない。
「ここまで来て何やってんだろ・・・」
ただ悔しかった。
試合前から分かっていたコートの違和感。
元々バスケットボールに使用されている会場ということもあり、かなりグリップの強いコートで、車椅子のタイヤなどが滑らず床に食いついてしまい動きが鈍くなったり、蹴ったボールが強い摩擦のせいでバウンドしてしまうような状況だった。
雨の日などは湿気があるため、コートの床が同じような状態になることもあり、日本ではボールにシッカロールなどを塗って摩擦を減らし滑りやすくしたりもするが、ここまでプレーに影響が出るほどのコートは初めて。
そういったこともあり危険性もあるので、チームからは相手との競り合いなどといった押し合いによりボールに乗り上げる可能性のあるプレーは避けるように言われていた。
実際選手はかなり気をつけながらプレーしていたが、あまりにも日本のコートと違うので最初はプレーの感覚を摑むのに大変だった。
そんな中での自分の転倒・・・。

しばらくして背後では試合終了のホイッスルが鳴った。
歓声が沸く。
当然その和の中に自分はいない。
恥ずかしい・悔しい、いろんな気持ちが入り交じる中、痛み始めた首にテーピングを巻いてもらいながら、みんなよりも一足早く会場から出て行った。

vol.6へ続く(TA) 試合会場